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2018年9月

2018年9月 9日 (日)

2018年9月アイビー随筆

アイビー随筆9月号

    「食味」      

         37年理学部卒 大内建二

 作家の故阿川弘之氏は無類の食通と美食家として文壇では知られた存在であった。そしてその娘阿川佐和子氏も父親に似た食通として知られているが、彼女はむしろ料理上手としてよく知られている。これは奥さんに向かって常日頃から「旨いものを食わせろ」とせがむ父親の姿を見ていたから、と考えてよさそうである。

 氏は多くの随筆を書いているが、その中でも傑作のひとつに「食味風々録」という、旨いものを食べた記録をつづった作品がある。大変に面白い。

 氏は何故食にこだわるかを説明している。旧制の中学校、高校、大学そして海軍と、旨いものを食べられなかった時代の自分への反動であるとしている。彼がいうには古今東西旨いものは数々あれども、自分にとって最高にうまいと思う食べ物は、結局は「暖かいご飯にオカカをふりかけ、醤油を垂らして食べるごはん」だそうである。

 本文の中に「弁当恋しや」という一文がある。傑作である。「自分の長男や長女(佐和子)が中学や高校になると、毎朝家内が二人の弁当を作っている。暖かいご飯に様々なオカズを乗せたそれはそれは旨そうな作品」。氏は奥さんに「俺にも作ってくれ」とせがむが、「家の中でお仕事をするあなたには無用のものです」とすげなく断られ、すごすごと書斎に引きこもる阿川氏。

 氏は無類の船好きとして知られているが、彼が言うには「船の上で食べた最高に旨かった食べ物は、南太平洋の孤島へ向かう3日間の小さなボロ船の航海で出された唯一の食べ物」だそうだ。「アルマイトのボウルにご飯が盛られ、それに鳥ガラ出汁のスープをぶっかけただけの食事」だそうだ。「彼が言うには、フランス料理のように素材に徹底的に手を加え、いかにも高級料理でございます。と称する料理は食い物ではない」と酷評している。

 振り返って私はというと、「明日が地球最後の日」という前の晩に食べたい最後の

食事は、「暖かいご飯、沢山の筋子、極めつけの酸っぱい白菜の古漬け、油揚げの味

噌汁」である。阿川氏とあまり変わらないような気がするが。日本人同士である。

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